東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

総合ゼミナール

*一般向けの公開は、楽理科研究演奏会、論文発表会のみです。

総合ゼミナールは、「音楽学実習」の一環として行われる授業で、学部3・4年生、大学院生を対象としています。内容は、楽理科教員の特別講義、内外の講師による特別講義、卒業論文・修士論文中間発表、学生の自主企画によるゼミナールと多岐に渡っています。原則として火曜日13時15分~、5-401にて開催。学部1、2年生も積極的に参加してください。

 

前期

第1回総合ゼミ 芸大生のための就職入門講座 −−楽理科卒業生を迎えて−− 

日時:2025年4月15日(火) 13:00~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

題目:「芸大生のための就職入門講座 ――楽理科卒業生を迎えて――」

今年度の講師:宮本真緒さん、室田尚子さん

講座概要
 卒業生2名を講師に迎え、就職活動における体験談や現在の仕事内容などをお話いただきます。就職活動の際に音大生が直面する問題や注意点を認識するとともに、さまざまな職域に対する理解を深めることを目的とします。

 

第2回総合ゼミ  Árni氏による特別講演

日時:2025年4月22日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

題目:「The Use of Folk Music and Nation-Building in Contemporary Icelandic Compositions(現代アイスランド音楽創作における民俗音楽の援用と国家構築)」

講義概要
 本講義では、アイスランドの民謡の主な種類と、20世紀初頭から作曲家たちがどのように民謡を作品に用いてきたかについて述べる。アイスランドの民謡を効果的に用いたヨン・ノルダール(Jón Nordal)や、アイスランド初の女性作曲家であり、ビョーク(Björk)が2004年にリリースしたアルバム『Medúlla』で人気を博した「Vökuró」の作者であるヨルン・ヴィーダル(Jórunn Viðar)現代作曲家アンナ・トルヴァルズドッティル(Anna Thorvaldsdóttir)らの作品を通じて、民俗の伝統の響きがどのように残っているかについて検証する。
講師略歴
Árni Heimir Ingólfsson
 アイスランド出身の音楽学者。ハーバード大学博士号を取得。主な研究分野は中世から現代までのアイスランド音楽史。著書に『Jón Leifs and the Musical Invention of Iceland』(2019年)など。近著『Music at World’s End』は、1930年代にドイツとオーストリアからアイスランドに逃れてきたユダヤ人音楽家たちと、彼らのアイスランドの音楽界への重要かつ永続的な貢献を扱っている。現在レイキャビック・アカデミー所属シニア・リサーチャー

 

第3回総合ゼミ Burkholder氏による特別講演

日時:2025年5月20日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

題目:「Schoenberg, Ives, and the Evocation of the Familiar(シェーンベルク、アイヴズ、そして「耳慣れたもの」の喚起)」

講義概要
 《月に憑かれたピエロ》、《ピアノ組曲》などの無調や12音作品において、シェーンベルクは、その音楽の探求への誘いとして、音楽的なトピック(トポイ)、親しみのあるテクスチュア、調性の痕跡への言及を含め、「耳慣れたもの」を想起させる。他方、アイヴズも、《交響曲第2番》において、アメリカの土着音楽とヨーロッパのクラシック音楽の対比と共通点を強調し、あるいは《詩篇第67番》では、彼の時代や地域のアメリカ人になじみのある曲を取り入れることで、耳慣れた音楽のタイプや様式への言及をおこなっている。そうしたケースにおいて、音楽は文化的記憶のタイムカプセルとなる。それらの検証を通じて、人々が共有する音楽がどのように感情を表現し、どのように互いの交わりを達成したのかについて考察する。

講師略歴
Peter Burkholder
 北米を代表する音楽学者のひとり。シカゴ大学で博士号を取得。これまでアメリカ音楽学会副会長および会長を歴任。主な著作に『All Made of Tunes: Charles Ives and the Uses of Musical Borrowing』(1995)、『Charles Ives and His World』 (1996)、『Listening to Charles Ives: Variations on His America』(2021)など。現在インディアナ大学名誉教授 Distinguished Professor Emeritus。

 

第4回総合ゼミ 楽理科研究旅行第1回ガイダンス

日時:2025年5月27日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

楽理科研究旅行に参加を検討している方は必ずご参加ください。

 

第5回総合ゼミ 音楽学のフロンティア(森谷理紗先生)

日時:2025年6月10日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

講師略歴
森谷 理紗
   東京藝術大学音楽学部楽理科を経て、同大学院音楽学専攻修了。チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院博士課程修了。博士[芸術学]。現在、京都大学人文科学研究所特定准教授。モスクワ音楽家協会150周年記念音楽コンクール作曲部門グランプリ(2011)、第二回村山常雄シベリア抑留研究奨励賞(2016)、第17回たちばな賞(優秀女性研究者賞)受賞。2024年『シベリア抑留下の芸術と人間』(桜美林大学叢書)出版。

 

第6回総合ゼミ 修士論文中間発表 

日時:2025年6月24日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

 

第7回総合ゼミ 博士課程2年生による企画発表

日時:2025年7月1日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

題目:ウィーンとブルガリアの事例から見る、「アマチュア」による音楽実践の功績

発表概要
本年の博士二年共同発表は、「アマチュア」による多様な音楽活動が音楽文化の形成にどのように貢献してきたのかを考察するものである。
笠井は 、19世紀ウィーンにおいてみられた「ディレッタント(音楽愛好家)」 を取り上げる。ディレッタントとは、「優れた芸術的才能を具えながらも、芸術を愛するがゆえにあえてそれを生業としなかった人々のこと」(ビーバー、フックス 2013)である。彼らの活動の出発点を社会的背景から確認したのち、ディレッタンド中心に創立されたウィーン楽友協会が当時の音楽界に与えた影響について検討する。
玉置は、1940 年代以降の社会主義ブルガリアにおいて⺠俗音楽界における「プロ」「アマチ ュア」の概念がどのように発生したのかを、政治的社会的背景を踏まえて紹介する。その上で、 社会主義時代にブルガリア全土のチタリシテ(地区センターのようなもの)を中心に展開され た、アマチュアによる⺠俗音楽実践の実例を挙げて、それらが当時の社会でどのように機能し ていたのか、また現代のアマチュア⺠俗音楽実践にどのような影響を与えたのかを検証する。
以上二つのケーススタディーを踏まえて、アマチュアによる音楽活動が現代まで続く演奏形 態を定着させる一助となってきたことを示す。

 

第8回総合ゼミ Breitkopf社による特別講演

ニック・ペップファーコルン講演会「マーラー《交響曲第5番》━━ 120年にわたる誤解と混乱の解明 」

日時:2025年7月8日(火)13:00~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部  サイエンス&アーツ・ラボ棟4階球形ホール(※通常の総合ゼミとは会場が異なります。)

講師略歴
Nick Pfefferkorn
1997年よりライプツィヒ音楽演劇大学にてファゴットと指揮を専攻。1996年同地にて「プフェッファーコルン音楽出版社 Pfefferkorn Musikverlag」を設立(2016年以降ブライトコプフ&ヘルテルのプログラムに編入)。2015年にパブリッシング・ディレクターとしてブライトコプフ&ヘルテル社に加わり、2017年には無限責任社員としてリーゼロッテ・ジーヴァース(創業者ゴットフリート・クリストフ・ヘルテルの直系6代目にあたる)から代表権を引き継ぐ。校訂者として19世紀の作曲家による作品の批判校訂版を手掛けており、特にリヒャルト・シュトラウスの交響詩およびグスタフ・マーラーの交響曲第5~7番に重点的に取り組んでいる。

講座内容
 マーラー《交響曲第5番》をめぐる複雑かつ錯綜した、多くの矛盾を含む資料状況及び出版のいきさつを解明し、作曲者の最終的な意図に迫る批判校訂版の作成に至った経緯を紹介する。

 

第9回総合ゼミ 古美研第2回ガイダンス

日時:2025年7月15日(火)13:15~14:30

楽理科研究旅行に参加予定の方は必ずご参加ください。

 

後期

第10回総合ゼミ  土田牧子先生 就任講義

日時:2025年10月07日(火) 13:15~14:30

 

第11回総合ゼミ 卒業論文中間発表

日時:2025年10月14日(火) 13:00~

発表者:今年度卒業論文・修士論文(前期未発表者)提出予定者

 

第12回総合ゼミ 卒論ガイダンス(※2026度提出者対象)、修論英文要旨ガイダンス(※2025年度提出者対象)

日時:2025年10月21日(火) 13:15~14:30

 

第13回総合ゼミ 博士1年生による発表Ⅰ

日時:2025年11月11日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

発表者 ①: 牧野 友香

発表題目:宮内省楽師多忠朝の神前神楽舞の創作と普及 ──1920年代から終戦にかけての「神社音楽」概念の表出──

発表概要:
 宮内省楽長を務め、雅楽の笛とヴァイオリンを奏した多忠朝(1883~1956)は、戦前から戦後にかけて多数の神前神楽舞を創作したことで知られる。彼が目指したのは新たな「神社音楽」の実現であり、日本古来の歌舞に回帰しつつも、同時代のジャズや讃歌に対抗しうる新規性をもつ演目を擁した式楽の実践であった。戦前の「神社音楽」は国体と関連づけて論じられ、国民教化の理念も負う壮大な構想だった。
 これまでに、寺内直子が彼の創作曲をリスト化した上で音楽的特徴を明らかにしている。しかし、彼の「神社音楽」提唱の動機、創作神楽舞の各社への普及経過などについては、戦前の神社奏楽の主導者であるにも関わらず未だ明らかにされていない。そのため本発表では、彼の神前神楽舞の創作が「神社音楽」の実現にどのように貢献したか、同時代の雑誌から彼の活動記録を読み解いて明らかにする。

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発表者 ②:湯淺 莉留

発表題目:ジョン・フィールド(1782〜1837)のピアニズムの系譜 ──モスクワ滞在期の2人の弟子を中心に──

発表概要:
  ジョン・フィールドは、アイルランド出身のピアニスト兼作曲家であり、19世紀前半にロシアを主要な拠点として活躍した人物である。本発表では、フィールドがモスクワ滞在期に指導したアレクサンドル・イヴァノヴィチ・デュビューク及びアントニ・コンツキに焦点を当て、2人がいかにして師の演奏様式を継承したのかを解明する。
 デュビュークはロシア国内で後進の指導に専念し、コンツキは国内外で広範に音楽活動を展開したため、一見すると2人は対照的であるように思われる。しかしながら、彼らには、教則本と回想録の両方でフィールドに言及したという共通点がある。本発表では、これらの文献でフィールドの運指法、打鍵法、ペダリングがどのように位置づけられたのかに関して、具体例を交えて説明する。

 

第14回総合ゼミ 博士1年生による発表Ⅱ

日時:2025年11月25日(火) 13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

発表者 ①: 荒木  理紗

発表題目:
J. S. バッハの声楽作品の形成期と同時代作曲家 ヴァイマル時代に焦点をあてて

発表概要:
 J. S. バッハの経歴の初期に関しては、個別作品の資料研究が豊富に蓄積されてきた一方で、彼の作曲家としての発展の実態は、関連史料の欠如に起因し、特に声楽作品において未だ不明な点が多い。この解明にあたって、ヴァイマル時代(1708-1717)は、バッハが自身のカンタータに初めて劇場様式を導入したことから転換期として重要である。発表者は、同時代の他作曲家との影響関係を明らかにすることを目的に現在研究を行っている。
 本発表では、バッハとC. グラウプナーによる同一テクストに基づくカンタータ《わが心は血の海に泳ぐ》(BWV 199、GWV 1152/12b)におけるレチタティーヴォ楽章を対象に、両者の付曲を比較しその共通点および差異を明らかにする。そして近年の関連研究(Wollny 2024、Schulenberg 2025等)を踏まえ、博士研究における今後の展望について検討する。

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発表者 ②:東舘  祐真

発表題目:1928年の昭和大礼における音楽行事

発表概要:
  1928年の日本では、昭和天皇の即位礼とそれに伴う皇室の祭祀である大嘗祭が執り行われた(昭和大礼)。戦前の日本国家にとって天皇の即位礼は国家イベントであり、宮中行事・祭祀にとどまらず、天皇の即位を寿ぐ「奉祝」行事が、政府あるいは民間の主導で多数催された。それらには震災や恐慌にて生じた社会不安を「奉祝」によって緩和し、天皇の存在を国民に広く印象づけようとする企図が垣間見られ、総力戦体制下の「皇紀二千六百年」(1940(昭和15)年)等の先例となるプロパガンダ的側面を持っていたと言える。本発表では以上のような昭和大礼に関する、音楽関連行事の調査を横断的に行いつつ、いくつかの事例を取り上げながら、日本近代音楽史における昭和大礼の重要性について検討する。

 

第15回総合ゼミ 博士1年生による発表Ⅲ

日時:2025年12月9日(火) 13:15~14:30

発表者 ①:天野 友翔

発表題目:ベートーヴェン《第九交響曲》の「ドイツ的」演奏解釈

発表概要:
 ベートーヴェンの作品は、しばしば演奏解釈を巡る議論の中で対象とされてきたが、その中でも、《第九交響曲》は、当該作品の演奏にかかる技術的困難などから、とりわけ議論の俎上にあげられることの多かった——換言すれば、多様な解釈のもとで演奏されてきた——作品である。本研究は、《第九交響曲》を事例として、演奏解釈の歴史的変容およびその受容の解明を目指すものである。
 本発表では、《第九交響曲》受容研究および演奏研究を概観したのちに、上述の問題に関する研究の第一歩として、しばしば、音楽史上初めての指揮の専門家とされるハンス・フォン・ビューロー Hans von Bülow(1830~1894)の《第九交響曲》解釈を扱ったうえで、今後の博士研究における課題を整理する。

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発表者 ②:許 慕瑄

発表題目:人民戦線期におけるアメリカ左翼の音楽的志向——『新大衆New Masses』誌の音楽記事を中心に——

発表概要:
 1930年代、アメリカでは大恐慌による経済・社会的不安の拡大を背景に、資本主義への不信が知識人層に広く共有されるようになった。音楽分野においても、批評家や作曲家が一時的に左翼的イデオロギーへ傾斜し、左翼系雑誌『新大衆』への寄稿やプロレタリア音楽組織への参加を通して、マスソング、労働歌や革命歌など、階級闘争や階級意識の形成を目的とした音楽をめぐる議論と実践に関与したことが確認される。
 しかし、人民戦線提唱以後、左翼の音楽的志向は、従来の「急進的」枠組みに収まらない変化を示し、むしろ1930年代後半のアメリカで高揚した愛国的言説とも接続し始めた側面が指摘できる。そこで本研究は、人民戦線期における雑誌『新大衆』を事例とし、その音楽記事および関連告知を統計的に分析することで、当時の左翼がいかなる音楽ジャンルにどのような価値を見出し、どのような政治的・文化的意味を付与していたのか、その過程にみられる力学的な変容を、同誌を介した言説として検討することを目的とする。

楽理科研究演奏会(公開イベント)

日時:2025年12月13日(土) 13:00〜 於:6ホール

 

2025年楽理科卒論・修論・博論発表会(公開イベント)

日時:2026年3月21日(土) 5-109教室