東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

博士課程1年生による研究発表(総合ゼミ)

2018年 11月 13日(火曜)13:15~14:30

場所:5-401教室

・発表者:今関 汐里
・題 目:英国王立音楽院に関する一次史料の調査およびその歴史的意義
・要 旨:発表者の博士課程における研究は、19世紀初期から中葉のイギリスにおけるピアノ教育の意義について、王立音楽アカデミー(1822年設立)の運営実態、教育課程および同機関に関連する音楽出版物、演奏会活動から検討することを目的としている。先行研究では、設立当初からの経営不全や教育水準の低さが度々指摘されてきたが、こうした考察は、アカデミーに関わる手稿資料や出版物の徹底的な調査に基づいて導き出されたものではない。
発表者は、本年3月と9月に渡英し、現地にてアカデミーの手稿資料およびその刊行物数点の存在を確認した。本発表では、それらの史料の概要とその価値について述べたのち、学生名簿に基づき、在籍した学生の傾向(専攻、男女比、卒業後の音楽活動)について考察する。


・発表者:鄭 暁麗
・題 目:日本占領下北京における西洋音楽の音楽活動に関する実証研究
・要 旨:北京は、近代の中国における音楽教育の展開と西洋音楽の普及に際して全国の中心地として位置付けられていたが、1927年南京政府の成立に伴う中国最初の音楽院である上海国立音楽院(現:上海音楽学院)が設立されたことによって、音楽発展の中心地が上海および南方に移動してきたと思われ、遷都後の北京とりわけ戦時下の北京における音楽文化の解明は立ち遅れている。一方、占領下北京においては、抗日内容の音楽を日本軍から禁止されたことによって、西洋音楽は、国家と戦争の狭間にあって意外な発展を遂げたのである。
従って、本研究は日本占領下北京(1937~1945)における西洋音楽の音楽活動に焦点を当て、占領空間のなかの西洋音楽は、どのようなレパートリーが演奏され、どのような役割を果たしたのか、を日中両国の資料による多角的に解明することを目的とする。具体的には、⑴日本人の音楽活動、⑵中国人の音楽活動、⑶台湾人の音楽活動、⑷欧米人の音楽活動、という4つの視点から考察する。
現時点の研究結果として、日本人の音楽活動については、対北支の音楽文化工作の展開(塩入亀輔「北支文化工作と音楽」『朝日新聞』1937年12月2日)、東京音楽学校の出身者(井上直二、宝井真一、田中利夫、中村千代子ら)が北京に渡って音楽活動をしたこと、山田耕作や藤原義行らの慰問公演などの事例が多く見られることがわかった。また、これらの日本人の音楽家は柯政和とのネットワークが興味深いと見られている。

 

2018年 11月 20日(火曜)13:15~14:00

場所:5-401教室

・発表者:曽村 みずき
・題 目:1930~40年代の薩摩琵琶の音楽実態とその社会的位置づけ ―レコード発売調査を通して―
・要 旨:薩摩琵琶は、明治時代初期の東京進出以降全国的に流行した、近代琵琶楽の一つである。博士課程での研究は、戦前・戦後という近代琵琶史において重要な転換点を含む1930~40年代を対象に、資料調査と楽曲分析を通して、琵琶界の社会的位置づけと薩摩琵琶の音楽実態を明らかにすることを目的としている。
本発表では、研究対象時期における薩摩琵琶のレコード販売状況から、終戦前後での薩摩琵琶界の動向を調査する。終戦前の収録曲には、同時代の人物や出来事を題材とする時局レコードも発売され、戦争へと向かう国家情勢による影響が窺える。また、レコード会社専属の演奏家も現れており、レコード会社と演奏家との関係性とその変遷についても言及したい。