東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

博士課程コロキウム

博士コロキウムは博士後期課程在籍の学生(原則として2年次生)が、準備中の博士論文について発表を行い、かつ参加者との討論を通じてその内容を深めて行くことを目的としています。火曜日、金曜日18:00~19:30、5-401にて開催。どなたでも参加できます(但し、博士課程1~3年生は必修。博士課程4年生以上も、出席することが望ましい)。

2020年度 

オンラインで実施(学内関係者限定での公開といたします)

■ 第1回 : 2020年 10月 13日(火)18:00-19:30

発表者 孫瀟夢(スンシャオモン)
<題目>1970年代から1980年代における日中音楽交流の研究
―中国伝統音楽家の日本での活動を中心に―
<要旨>本研究では日中音楽交流史の視点から、1970~80年代の中国伝統音楽家の日本での活動状況調査により、音楽界において日中交流がどのように展開したのかを明らかにする。調査は1970~80年代における両国の放送記録・演奏記録・出版譜・批評記事等を検討し、さらに関係者へのインタビューを行うことで、日中国交正常化の1970年代から交流の繁栄期の1980年代にかけての全体像を構築し、関係音楽家の活動が日本社会での中国楽器の受容にどのような役割を果たしたかのを明らかにする。さらに、それを戦後日中音楽交流史に位置づけるものである。

■ 第2回 : 2020年 10月 27日(火)18:00-19:30

発表者 松橋 輝子(まつはし きこ)
<題目>『カトリック聖歌集』(1966)におけるドイツ聖歌
<要旨> ドイツ語圏のカトリック教会の領域における啓蒙思想の影響は、18世紀末から19世紀初頭の間に見られ、典礼改革をもたらした。この典礼改革に伴い、礼拝で用いられる「聖歌集」にも大きな変化が現れた。こうした改革の産物としては、母国語による信徒教化のための聖歌やラテン語の司祭の司式に会衆が歌って付き従う「Singmesse」の作成などがある。
本研究は、現在の日本のカトリック教会の『カトリック聖歌集』(1966)の大部分が原曲をドイツやフランスの聖歌にさかのぼることのできる邦訳聖歌であることに注目し、原曲がドイツ語聖歌である作品について、その起源をさかのぼり、200年の時を経て第2バチカン公会議で果たされたと考えられてきた啓蒙思想に基づく典礼改革、そしてその際に生み出された聖歌集とのかかわりを論じることを目的としている。
明治以降の聖歌集に改訂を重ねながら現在の形に至っている『カトリック聖歌集』に関しては、依然として研究が進んでいない部分が多く、本研究を通して「海賊版」とも揶揄されることの多い『カトリック聖歌集』の改訂の歴史を総合的に検証し、また、各聖歌の歌詞などの改訂の変遷を神学的・音楽的観点から分析する。

■ 第3回 : 2020年 11月 24日(火)18:00-19:30

発表者 李 惠平(り けいへい)
<題目>チョウ・ウェンチュン(1923–2019)研究の射程と展望
<要旨> 本発表は、発表者の博士研究「アジアの現代音楽における他国の参照」における検証対象の一人である中国系アメリカ作曲家のチョウ・ウェンチュン(周文中Chou Wen-chung 1923–2019;以下は周)を対象にした先行研究の網羅的・体系的に批判を行った上で、周に関する研究の問題点、限界または音楽学的展望を探ることを目的とする。
戦後アジア作曲家の第一世代に属す周は、長年アメリカの現代音楽界で活躍し、東西音楽文化の融合を現代音楽で「成功」させた作曲家の一人と考えられてきた。しかし、彼を対象とした先行研究の多くは、周の技法と論述における革新性・越境性を主として扱い、無条件に高く評価しているが故に、彼に対する理解や研究をほかの学術分野から孤立させる傾向にある。そのため、本発表の前半では周を研究対象とした三つの学術著作を中心に、既往研究の問題点と限界を示す。
また、アメリカの市民権を持つ周をどのように戦後音楽史の文脈において位置付けうるのかという問いは、周に関する研究では扱い難い課題の一つである。そこで、本発表の後半では、周の作曲技法の「変旋法variable modes」を再考し、次いで先行研究で論じられてこなかった彼の晩期作品における「間文化性interculturality」を検証することで、周に対してより適切な再評価と現代音楽史記述における周の位置付けを試みる。

2019年度

■ 第1回 : 2019年 10月 29日(火)18:00-19:30 5-401教室

発表者 鄭暁麗
<題目>日本占領下の北京における音楽活動の実態
―戦時下の音楽関連記事の調査から―
<要旨>発表者の博士課程での研究は、日中戦争下、とりわけ1937~1945年の日本占領下北京における音楽活動の実態、および戦争の影響によって北京の音楽文化の変遷を明らかにするものである。発表者は、これまでに戦時下の北京で刊行された新聞『新民報』(1938~1944)や同時代の日本の新聞紙・音楽雑誌から北京に関わる音楽記事を抽出する作業を行ってきた。本発表では、上記作業をもとに得られた結果を報告し、①戦時下の北京における音楽活動の表象、②日中の音楽家の協働、③「占領空間」の中の音楽文化の特質について検討する。

■ 第2回 : 2019年 11月 12 日(火)18:00-19:30 5-401教室

発表者 曽村みずき
<題目>1930~40年代の薩摩琵琶の音楽実態とその社会的位置づけ
―戦争の影響に着目して―
<要旨>本研究は、1930~40年代を対象に、近代琵琶楽の一つである薩摩琵琶の音楽実態とその社会的位置づけを明らかにすることを目的とする。本研究では、①琵琶界内外を示す文献資料調査と、②戦争を題材とする新作楽曲および同一演奏家の複数音源の分析を並行させることで、戦時期における薩摩琵琶界の状況を受容・演奏実践の両面から具体的に捉えることを試みる。本発表では、これまで取り組んできた近代琵琶のSPレコード発売・演奏会状況の調査、および大正期から戦後にわたって活躍した琵琶奏者である榎本芝水(1892~1978)による戦前・戦後での演奏表現の分析から、対象時期に創作・演奏・享受され、鳴り響いた「音」の実態について検討する。

■ 第3回 : 2019年 11月 26 日(火)18:00-19:30 5-401教室

発表者 今関汐里
<題目>ムーツィオ・クレメンティの楽譜校訂活動――レパートリーを手掛かりに
<要旨>発表者は、博士課程の研究において、ムーツィオ・クレメンティの他作曲家作品に基づく楽譜校訂の活動について、彼の出版業活動との関わり、編集姿勢・方針および彼が校訂した作品の受容の面から明らかにすることを目的としている。
クレメンティは、1791年にスカルラッティのソナタ(全12作)の校訂楽譜を出版して以降、他者の作品に基づく楽譜集全4シリーズを手掛けている。それぞれの楽譜上には、元の作品の作曲者名が記されているものの、原曲の厳密なタイトル、ジャンル等は示されておらず、これまでの研究でも十分に調査されてこなかった。
そこで本発表では、クレメンティが校訂した全4シリーズの楽譜集における作品のレパートリーについて、それらの作品の①ジャンル、②作曲者の選択(国、時代)、そして③彼が校訂を行う際に用いたと考えられる資料の3つの観点から検討する。

2018年度

■ 第1回 : 2018年 6月 26日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 内藤眞帆
<題目>マーラーの初期交響曲における打楽器の使用法
<要旨>マーラーの交響曲における管弦楽法にまつわる先行研究には、テクストを持つ楽章を取り上げ、テクスト内容と管弦楽法の関連を意味論上から論じるものが多く、純音楽的側面に言及しているものは極めて少ない。そのため本発表では、発表者が博士論文で対象とするマーラーの初期交響曲(第1交響曲から第3交響曲)の初版出版以前の各段階を示す自筆総譜および筆写総譜における打楽器に焦点をあて、それらを比較・分析することにより、マーラーの初期交響曲における打楽器の扱いの純音楽的側面における特徴を提示する。

■ 第2回 : 2018年 7月 10 日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 山本明尚
<題目>>20世紀初頭ロシアの『革新的作曲家』の『革新性』再考
<要旨>1910~20年代のロシア・ソ連の楽壇では、新しい音楽を求める作曲家が盛んに活動していた。ある者らは先行者を乗り越えるべく無調や新音楽理論へと向かい、またある者らは「革命」という社会的運動とその精神をモデルに旧習の打破を試みる――十月革命とその直後の社会的・政治的動乱を背景にして、様々な考えや方向性をもって追求された「新しさ」がみられることが、この時代のロシア音楽の興味深い特色である。発表者の博士研究は、彼らの音楽の「新しさ」が、過去の何に対して新しいものなのかを明らかにするものである。本発表では、博士研究の概要や方向性を述べるとともに、1920年代前半の「プロレタリアート音楽家連盟(RAPM)」の活動とそこに在籍した作曲家の音楽に、どのような「新しい音楽」を求める動きが見られるかを考察する。

■ 第3回 : 2018年 10月 9 日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 井澤友香理

<題目>スペイン・カタルーニャにおけるカタラン・オペラ創出の意義
―アンリック・グラナドス《フォジェ Follet》を例に―
<要旨>19世紀末頃〜20世紀初頭のスペイン北東部のカタルーニャ地方では、ラナシェンサ(カタルーニャ・ルネサンス)、ムダルニズマ(カタルーニャ・モデルニスモ)と呼ばれる独自の文芸・芸術運動が興っており、音楽の領域においてはカタラン・オペラ(カタルーニャ語台本のオペラ)の創出と国内外での定着が目指された。当時グラナドスは、作曲の師であったフェリプ・パドレイの影響もあり、作曲の題材としてのカタルーニャ民謡へ関心が高まっていた。本発表では当時のカタラン・オペラの創出の試みが一種のナショナリズムの反映であった点を確認し、アンリック・グラナドスのオペラ《フォジェ》(1901〜2)をカタラン・オペラ史に位置付ける。

■ 第4回 : 2018年 10月 23日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 工藤真司

<題目>ヘルマン・クレッチュマーによるリーデル合唱団のプログラム構成方法
<要旨>1854年の創設以来、ライプツィヒの「リーデル合唱団」は創設者カール・リーデルの実質的なワンマン経営により成立していた。そんな彼が1888年に死去した際、解散の危機に瀕していた合唱団の指揮を執ったのがヘルマン・クレッチュマーであり、当時の一次資料では彼への感謝が度々述べられた。にもかかわらずリーデル合唱団研究におけるクレッチュマー、またクレッチュマー研究におけるリーデル合唱団の存在は重視されてこなかった。クレッチュマーとリーデル合唱団の相互関係に関する当時と現代のこの温度差について再考を試みる。そのための一案として本発表では「クレッチュマー期(1888~1897年)におけるリーデル合唱団のプログラムの構成方法」に焦点を当て、同時期(1890~1895年)に彼が主催していた “Akademische Orchesterkonzerte” という器楽演奏会との関係性も考える。

■ 第5回 : 2018年 11月 6日(火)18:00-19:30 5-401教室

発表者 Duran, Stephen

<題目>古代インドの音楽文化遺跡としての密教声楽—日本・チベットの資料を中心に―
<要旨>博士課程2年目のコロキアムの発表では、今まで自身が研究した以下のことを中心に発表する予定である。
紀元前からと紀元後へと移り変わる頃、インドでは仏教声楽のスタイルが変化を遂げている途中であった。この新しい仏教声楽のスタイルは、長いメリスマ的な旋律を持つものであり、7世紀に成立した、真言陀羅尼の詠唱を中心とした密教仏教に取り入れられた。密教の経典と儀式は、7世紀から9世紀までに、日本とチベットに伝来し、両国では、仏教儀式において音楽は大変重視された。13世紀になると、仏教声楽理論が両国で発展し、それぞれの国の文化に合わせ、仏教声楽は変化を遂げた。ただ、両伝承に変化があったとしても、7世紀インドの音楽文化を残した部分も少なくはない。本発表では、両国の密教声楽理論を比較した結果から解ってきた、それらの音楽概念のインド的なルーツについて述べる。

■ 第6回 : 2018年 11月 20日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 木岡史明

<題目>うた澤節における舞踊
<要旨>うた澤節とは、非劇場での三味線音楽として安政四(1857)年に江戸(本所・深川を中心)で誕生し、明治・大正の影響(試行錯誤)を通して、音楽的特徴が育まれてきた音曲である。発表者はこれまで、①明治・大正期の劇場における活動(活動領域の拡大)、②明治期から戦前期にかけての節廻し(音楽特徴の変化)、③前弾きの変遷(音楽構造の改革)、などを検証し発表してきた。しかし、それらの変化や変遷を明らかとしたが、要因は推測に過ぎなかった。今発表では、明治末から戦前にかけての舞踊での展開に着目して、②③における音楽的変化の意味付けを行いたい。

■ 第7回 : 2018年 12月 4日(火)18:00-19:30 5-401教室
発表者 東田範子

<題目>カザフ伝統音楽の継承の諸相 ——村落での音楽実践を中心に
<要旨>ソ連時代に近代化を経たカザフスタンでは、伝統音楽の継承のさまざまなあり方が、都市/村落、正式な音楽教育の有無、プロフェッショナル/アマチュアというパラメータによって特徴づけられている。一方で、ミクロな視点で見ると、そのような二者択一に還元できない伝統音楽の多極的な様相も浮かび上がってくる。そこには音楽家と音楽学者による折衝も少なからぬ影響力を与えていた。
本発表では、まず博士論文の全体的な構成案を示し、基本的概念に関する諸問題について検討する。次に、村落での音楽実践に関して、夏期に行った調査について報告を行い、論文全体の構成要素としての位置づけを考える。