東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

博士コロキウムのお知らせ(学内開催)

11月は博士課程の学生さんのコロキウムが行われます。
時間は18:00~19:30、5-401教室で開催になります。
11月15日(火)千葉豊さん
〈題目〉
「機械化」の時代における音と象徴:戦間期の音響メディアと人間の聴取経験を巡る社会歴史的分析
〈要旨〉
本研究は、戦間期において「機械的な」(⇔「生の」)音に対する現代的な聴取経験が形成された過程を明らかにし、同時代の人々が蓄音機やラジオを始めとする音響メディアによって再生される音の中に音以上の何を聴き取っていたのかを解釈する試みである。本研究はその思想的枠組みとして、1920年代中頃から独語圏を中心に議論された「音楽の機械化」という主題を援用し、音楽の再生の場から生身の演奏者を排除し、その場限りの主観的な行為であった音楽が客観的に再生(複製)される商品として普及しつつあった歴史的転換において、いかなる音楽聴取の様態がもたらされたのかを問う。戦間期の作曲家と批評家が機械/電気的に再生された音の中に見出したのは、当代社会の現代化と都市化の様相であり、「機械化」が可能にした新しい音楽聴取は、単にそれまで経験したことのない音と音楽を聴く行為であるというよりも、彼らを取り巻く音環境なしにはあり得なかった社会・文化的象徴を読む行為であったと言える。つまり、「機械化」時代における音とは、規格化された工業製品が空間を占め、新興の映画が大衆によって共有される視覚イメージを形成するようになった戦間期という時代に根差した想像力の拡張と蓄積と共にその意味を獲得したと考えられる。以上の観点から、本研究では音楽や絵画、建築、映画領域を横断して多様な聴覚/視覚イメージを思索上の素材としながら、ベンヤミンやアドルノを含む当時の知識階級による文化批評に基づいて戦間期の「機械化」に適応した新しい聴取経験とその想像力を検証する。
11月29日(火) 陳麟さん

〈題目〉
中華民国期の上海における大衆音楽文化の実態

〈要旨〉
発表者の研究は、中華民国期、特に1930年代前後の上海租界における中国で「時代曲」と呼ばれる大衆音楽、社交ダンス及びジャズの受容というような複数の側面を注目し、当時の大衆音楽文化のある実態を明らかにすることを目的としている。これまで、発表者は、アヘン戦争以降から1920年代初頭まで上海の中国人社会における社交ダンス文化の変遷を考察し、彼らが自発的に社交ダンスをを自らのライフスタイルに取り入れ、一つの娯楽産業に発展させたという主体性を明らかにした。そして、今回の発表では、その以降の十数年間を注目し、当時に刊行された新聞・雑誌のみならず、回想録やドキュメンタリー作品などを持ちながら、民国期の上海における①ダンスホール、ジャズバンドなどの音楽団体、レコード産業、音楽作品の出版、ラジオ局の設立と展開などから反映されているモダニティと、②音楽・娯楽施設の運営、音楽作品の内容、社交ダンスのスタイルなどから反映されている「海派文化」と呼ばれる文化現象に潜むキッチュという二つの特質について検討することを試みる。

皆様ふるってご参加ください!
楽理科教員室