東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

第15回総合ゼミ 博士課程1年生発表

第15回総合ゼミ 博士課程1年生発表

日時:2025年12月09日(火)13:15~14:30

場所:東京藝術大学音楽学部5号館 5-408教室

発表者 ①:天野 友翔

発表題目:ベートーヴェン《第九交響曲》の「ドイツ的」演奏解釈

発表概要:
 ベートーヴェンの作品は、しばしば演奏解釈を巡る議論の中で対象とされてきたが、その中でも、《第九交響曲》は、当該作品の演奏にかかる技術的困難などから、とりわけ議論の俎上にあげられることの多かった——換言すれば、多様な解釈のもとで演奏されてきた——作品である。本研究は、《第九交響曲》を事例として、演奏解釈の歴史的変容およびその受容の解明を目指すものである。
 本発表では、《第九交響曲》受容研究および演奏研究を概観したのちに、上述の問題に関する研究の第一歩として、しばしば、音楽史上初めての指揮の専門家とされるハンス・フォン・ビューロー Hans von Bülow(1830~1894)の《第九交響曲》解釈を扱ったうえで、今後の博士研究における課題を整理する。

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発表者 ②:許 慕瑄

発表題目:人民戦線期におけるアメリカ左翼の音楽的志向——『新大衆New Masses』誌の音楽記事を中心に——

発表概要:
 1930年代、アメリカでは大恐慌による経済・社会的不安の拡大を背景に、資本主義への不信が知識人層に広く共有されるようになった。音楽分野においても、批評家や作曲家が一時的に左翼的イデオロギーへ傾斜し、左翼系雑誌『新大衆』への寄稿やプロレタリア音楽組織への参加を通して、マスソング、労働歌や革命歌など、階級闘争や階級意識の形成を目的とした音楽をめぐる議論と実践に関与したことが確認される。
 しかし、人民戦線提唱以後、左翼の音楽的志向は、従来の「急進的」枠組みに収まらない変化を示し、むしろ1930年代後半のアメリカで高揚した愛国的言説とも接続し始めた側面が指摘できる。そこで本研究は、人民戦線期における雑誌『新大衆』を事例とし、その音楽記事および関連告知を統計的に分析することで、当時の左翼がいかなる音楽ジャンルにどのような価値を見出し、どのような政治的・文化的意味を付与していたのか、その過程にみられる力学的な変容を、同誌を介した言説として検討することを目的とする。