東京藝術大学 音楽学部楽理科/大学院音楽文化学専攻音楽学分野

博士コロキウムのお知らせ(学内開催)

11月は博士課程の学生さんのコロキウムが行われます。
時間は18:00~19:30、5-401教室で開催になります。
11月04日(火)佐竹那月さん
〈題目〉
C. P. E. バッハの「自由ファンタジー」原理——楽曲分析と18世紀音楽美学の観点から——
〈要旨〉
 本発表の目的は、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-1788、以下C. P. E. バッハ)の「自由ファンタジー」の様式が同時代の聴衆にどのようなものとして受容され得たのか考察することである。その際、楽曲分析結果を同時代の音楽美学と照合し、その様式的特徴を検討する。
「自由ファンタジー」とは即興演奏のことであり、前もって暗記していたパッセージ等に頼らず、自らの良い音楽的精神から生み出されるべきものとされる(Bach 1753)。C. P. E. バッハは、奏者自身が楽曲の感情の中に浸らなければならないと説く一方で、「自由ファンタジー」において聴き手の予想を理知的に裏切る手法を紹介している(Bach 1753; Bach 1762)。つまり、C. P. E. バッハにとって演奏は、感情を理性的に構築・伝達する行為であり、18世紀音楽美学で重んじられていた、理性と感性の調和による「秩序ある美」に通じるものと言える。先行研究では、彼の「自由ファンタジー」と、D. ディドロ(1713-1784)らによるフランスの音楽美学論(Tishkoff 1983; Fick 2023)や、M. メンデルスゾーン(1729-1786)の音楽美学論との相関関係(Grimm 1999)が指摘されてきたが、彼らの理論と楽曲との有機的接続という点では未だ不十分な点が多い。
本発表では、聴き手は感情的効果と音楽的「秩序 Ordnung」の両方を意識的に享受し、共感しともに思考するべき、等といったメンデルスゾーンの論考(Grimm 1999)を主に参照し、「自由ファンタジー」を、感情と楽曲形式構造(理性)の間に生じる緊張関係として捉える。そして、C. P. E. バッハの「自由ファンタジー」が、例えば、内的矛盾と対峙しそれを乗り越える過程を描くものとして、古典主義的な人格形成の理念と関わる可能性を検証する。本発表を通して、「自由ファンタジー」の解釈に新たな美学的文脈を接続する視座の提示を目指す。
皆様ふるってご参加ください!
楽理科教員室